先週の歓迎会のときとは違って、相変わらず院内では不愛想な表情だ。


「こんなところでなにしてる?」


話し方も、この前とは違う冷たい話し方。
せっかくお礼を言おうとここまできたのに、こんな対応の仕方をされるとお礼すらも言いたくなくなる。

それでも、この前の優しさは……私にとっては本当に助かったことだ。
あのときの五十嵐先生が、本当の姿であると信じたい。

5階に到着したエレベーターを一旦見送ると、私は五十嵐先生と向き合った。


「外来行かないと遅れるんじゃないのか」

「あ……はい。でも、五十嵐先生にお礼が言いたくて」

「お礼?」

「先日の歓迎会のときです。早めに帰らせてくださってありがとうございました」


「……あぁ」と、間をおいてそう言った五十嵐先生。この様子だと、覚えていなさそうだ。
本当にお酒の勢いで私を早く帰らせただけなのか、親切なのか。真相は謎だ。

なによ。せっかく彼の意外な一面を見れたと思って嬉しかったのに。

当の本人が覚えていないなんて、1人で舞い上がっていたみだいじゃない。


「……それじゃあ、外来行きます」


なんとなく気まずくなった私はエレベーターを呼んで、外来に向かった。

なんだ。覚えていないのか……。
本当はもっとこう、話が広がったりするかもしれないとか、淡い期待を抱いていた。