それでも、私が昨年辛い思いをしたことを詳しく話していないのに気に掛けていてくれたことに、心が温かくなる。

やっぱり、人は見かけによらないのかも。
仕事中は不愛想でも、プライベートは優しい。そのほんの少しの優しさの部分を、患者さんには100%にしているのかもしれない。

小さくなっていく五十嵐先生の背中を見えなくなるまで見送ると、私は自分の自宅へと向かった。


時刻は22時を少し過ぎたところ。
飲み会のときに、こんなに早く帰宅することにはあまり慣れていない。

家に戻りメイクを落としてシャワーを浴びると、冷蔵庫に冷やしてあった缶チューハイを開けた。
何気なく開いたスマホには1通のメッセージが入っていて、突然いなくなった私を心配した森脇さんからのメッセージだった。


『心配ありがとうございます。体調は悪くないです。みなさん盛り上がっていたので、こっそり帰って来ちゃいました』


五十嵐先生が連れ出したことは、今は伏せておきたい。

せっかくのご厚意を安易に周りに話すことは、五十嵐先生にも悪い気がしたから。


「五十嵐先生には、来週お礼を言わないと」


いきなりのことすぎて、伝えそびれてしまった感謝の言葉。
それは週明けにきちんと伝えようと思い、私はベッドに潜り込んだ。