俺にとっても森脇にとっても、誰にとっても今日は忘れてはならない日。


ナースステーションにいる看護師たちにあとは任せるとして。

白衣を脱いで私服に着替えた俺は、森脇たちが待つ駐車場へ向かった。
車付近で、羽玖が遊んでいるのが見える。


「すまない。待たせた」

「せんせー、おそいよ」

「もう。これだから仕事人間は……」


嫌味たっぷりの表情で、森脇が俺を見つめる。

でも、彼女の言っていることは間違ってはいない。
葵がいなくなってからもなお、仕事に対する誠意は変わらず。

むしろ、葵がいなくなった寂しさを埋めるように、仕事ばかりしている。

外来患者の数もオペの数も、5年前に比べたら増えているから。
看護師たちは、嘆いているけど。


「さて、行きますか」


そう言った森脇はチャイルドシートに羽玖を乗せると、運転席側に回って車のエンジンをかけた。
そして後部座席の羽玖をもう一度確認すると、ゆっくりと車を走らせる。

俺の車にチャイルドシートは設置していないため、葵の実家へ向かうときは森脇にお願いしている。

それもあるけど、以前「五十嵐先生の運転は不安です」と森脇に言われてから、2人を乗せることは辞めた。
どうも、森脇は俺に不信感があるようだ。