自分が傷付いているなんて思ったことがなかった。いや、いつからか痛みを感じていないと思い込んでいた。


梨央を手放したくない。自分のものにしたい。



「…好きなんだ。もし誰かに取られたらどうにかなりそうだ…。」



気が付いたら本音が口から出ていた。梨央はまた真っ赤になっていたけれどそれも可愛くて、もっと困らせたくなって思っていたことが口から溢れた。


その後しばらくして梨央と一緒に帰るようになってから多摩に彼女の気持ちが自分に傾いてきているように感じることがあった。



「栄斗に近づく子すらいなかったのに。彼女はいたことないはずだよ。」 

「佐野先輩が知らないだけじゃないですか?」



ある日、日直の仕事を終えていつものように梨央を教室まで迎えに行くと、慎太郎と梨央の会話が聞こえてきた。


それを聞いて梨央の気持ちを確かめたくなった。勘違いかもしれないけれど、梨央が俺を好きになってくれたように思えた。



「はい。私と付き合ってください。」

「…好きです。私も。」



そう言った梨央の笑顔を俺は一生忘れないだろう。