広いリビングテーブルには、ハンバーグ、ミネストローネ、サラダ。二人分にしては多すぎるほどのメニューが並んでいた。食欲を刺激するよい匂いが部屋中に漂っていた。
 


「これ、全部真白さんが作ったんですか?」

「同居初日は、お祝いしたくてさ」


 正直私は料理が得意ではない。

 私の料理の腕では到底作れないレベルの献立が並んでいて驚いた。


 料理も家事も任せて。と言い張る理由がわかった。料理のレベルが非常に高い。

 ご飯は温かいうちに食べようという真白さんの提案で、挨拶もほどほどにご飯を食べることなった。



「おいしい! レストランの味かと思いました」

「ははっ。大袈裟な」


 お世辞ではなかった。ハンバーグにかけられたデミグラスソースも。ミネストローネも。本当に美味しくて、お店を出せるレベルだった。

 炒飯くらいしかまともに作れない私は、きっと彼の前で手料理を振る舞うことはないだろう。この味を食べて、手料理を振る舞う度胸は出てこない。


 お酒も用意してくれたので、至れり尽くせりの夜ご飯だった。
 

 
「改めまして。今日から同居……。宜しくお願いします」

「こちらこそ。よろしくお願いします。あれから元カレから連絡あった?」

「そうですね。何度か着信は来ているみたいです」

「元カレの名前聞いてもいい?」

「え? 花田楓。です」

「ありがとう」

「どうして名前を?」

「ちょっと思うことがあってね」


 意味深に零した言葉が引っ掛かったが、お酒も入っていたためすぐに忘れていた。 
 
 
 お酒もほどよく回ってきて、ふわふわと心地よい。真白さんはお酒に強くないらしく、目がトロンとしていた。頬を赤く染めて、潤った瞳に色気を感じてしまう。純粋で無垢な瞳を向けられると、心の奥がズキっと傷んだ。



「あ、あの! お風呂に入らせていただいてもいいですか?」

「大丈夫? お酒少し抜けてからの方がいいんじゃ?」

「いつもなので、大丈夫です!」


 邪な気持ちがバレる前にその場から逃げたくて、半場無理やりお風呂に入ることにした。

 

 洗面所の扉をバタンと閉めると、いまだにドキドキが収まらない胸元に手を当てた。


「ドキドキしたら、ダメなのに」


 落ち着くまでしばらく動けなかった。真白さんはそんな気さらさらないのに、一方的にふしだらな目で見てしまった自分を悔いた。