免許証に記載された住所に到着した。車の窓から見上げると、綺麗めな高層マンションだった。さすがエリート社員。私のような平社員では到底住めなそうなマンションに住んでいる。
 

「真白さん、つきましたよー。家ですよ! おーい」



 困った。揺さぶっても叩いても起きない。完全に眠っている。困り果てている私に運転手からの圧の眼差しを向けられる。


 「早くしろ」と言わんばかりにぎろりと睨まれた。大人の男を抱えてマンションまで送っていくなんて、1万円じゃ割に合わない。



 運転手からの圧に耐え切れなくなり、仕方がないので、真白さんの腕を肩に乗せて引きづりながらタクシーから降りた。このまま道路に置いていきたいと思ったが、さすがに私の中の理性が止めた。


 長身で重い真白さんの身体をなんとか引きづりながら、部屋へと向かう。


「なんで。私が、こんなエリートイケメンなんか」




 不満をぶつぶつ零す。
 愚痴だって零れてしまう。一般的な女子なら、喉から手が出るほど羨ましい状況かもしれない。


 しかし、童貞としか恋愛しないと決めた私にとっては、イケメンエリートなんて、何の意味もないのだ。


 文句を吐き捨てながら、なんとか部屋にだどり着いた。


 真白さんのカバンの中から探し出した鍵で玄関ドアを開ける。

 
 ドアを開けると、白で統一された綺麗な玄関がお出迎えしてくれた。煌びやかな外観に負けじと、玄関から高級感を感じる作りだった。
 
 
「真白さん! つきましたよ! いえ! 家ですよ!」



 耳元で声を張っても起きる気配がない。ぺちぺちと頬を叩いてみても、肩をぐらぐらと揺らしてみても、全く起きる気配がない。仕方がないので玄関に置き去りにして帰ろうと玄関ノブに手を掛けた。


 身体がツンと引っ張られる感覚。不思議に振り返ると、真白さんが私の服の袖を掴んでいた。


「さむい、」

 綺麗な顔で目を閉じたまま、ぽつりと零した声がやけに耳に残った。

 普段の真白さんは終始キリッとしていて仕事人間という印象だ。そんな彼の新しい一面が見られて、きゅっと、なんだか胸の奥が疼いたような感覚に陥る。



 子供みたいに服の袖を掴んで離さないので、ため息と共に観念した。