「重た…」


準備を終えて大きなリュックを背負ったわたしは玄関で小さくつぶやいた。


ささっと前髪を整えたあと、勢いよく玄関のドアを開ける。


季節は秋。


いつもと変わらない朝。


いつもと同じ通学路を歩いて、いつもと同じ時間のバスに乗る。


わたし、吉川 みゆ(よしかわ みゆ)は森ヶ丘高校に通う2年生。


いつもと同じ、なんだけど、今日からの2日間はちょっとだけ違う。


はぁ〜ドキドキするなぁ。


バスを降りると、バス停のそばに立っていた女の子がわたしの名前を呼んだ。


「みーゆちゃん」


この声の主は中学の頃からの親友、本田 桜(ほんだ さくら)。


頭が良くてツッコミが鋭いからクール系のお姉さんに見られがちだけど、わたしのことを「みゆちゃん」って、ちゃん付けで呼ぶんだ。そのギャップがたまらない。


「桜!おはよう」


「…なんか変な顔。なにに緊張してんの?」


おはようと言われると思いきや、なんですかそれ。


ていうか。


桜さん、ちょっと冷静すぎません?


今から一世一代の大イベントが行われるというのに。


「だって今日だよ!?ついに今日から修学旅行に行くんだよ!」


大きな声で言うわたしに苦笑したあと、桜は目を細める。


「まぁ、その大きなリュック見たら楽しみにしてるのは伝わってくるけどさ」


「あ、伝わった?てかなんで桜そんな荷物少ないの?ちょっとその荷物の入れ方教えてほしい」


「はいはい。でもこのままだとわたしたち遅刻確定だからとりあえず歩くよ、みゆちゃん」


わたしを置いてひとりでスタスタと歩いていく桜。


「あ、ねぇちょっと!」


わたしは急いで桜の隣に並んだ。