午前零時のジュリエット

「いいってことよ。嬢ちゃん、少しは警戒した方がいい。酒を飲む場じゃ、あんな風に下心を持った奴が一定数いるもんだ」

男性は、ホワイトルシアンの入ったカクテルをカウンターに置く。美紅は男性の言っている言葉がわからず首を傾げていると、「知らねぇのか?」と男性は驚いた顔を見せた。そして、ホワイトルシアンについて説明していく。

ホワイトルシアンは、見た目が美しく、口当たりも優しく飲みやすいのだが、アルコール度数が高い。男性が女性を酔わせる時に飲ませるレディーキラーと呼ばれるカクテルの一つなんだそうだ。

「ーーーというわけだ。わかったか?」

「は、はい!よくわかりました!」

もしも、あのままホワイトルシアンを飲んでしまっていたのなら、今頃美紅はどうなっていたかわからない。ゾッと寒気が込み上げ、男性を見上げる。

「あの、お礼をさせてくれませんか?」

「礼?そんなもんいらねぇよ。危なそうだったから声をかけただけだったし」

男性はそう言って立ち去ろうとしたため、美紅は素早くその腕を掴む。そして、「この人にカクテルを」とバーテンダーに頼んだ。

「おいおい……。見かけによらず大胆なんだな」

「お礼をしないと気が済まないので」

今まで見てきた男性とは違う、そう美紅は感じたのだ。これが、美紅の運命を大きく変える真田航(さなだわたる)との出会いとなった。



出会った日から美紅は航とバーで時々飲むようになった。航は頻繁にこのバーに来ているようで、美紅が行くといつも一人でカクテルグラスを傾けている。

「こんばんは、真田さん」

「嬢ちゃん、もうすぐ夜中じゃねぇか。こんな時間に若い女性の一人歩きは感心しないぞ」

渉は美紅より十五歳も歳上で、美紅が十二時近くにバーに来ることを心配してくれる。だが、美紅は微笑みながら航の隣に腰掛けた。