午前零時のジュリエット

ドラマの主人公もきっとこんな気持ちだったのだろうか、そう思いながら美紅がもう一度カクテルに口をつけていると、「お姉さん一人なの?」と横から不意に声をかけられる。

美紅が隣を見ると、派手なピアスをいくつもつけ、髪を金髪に染めた軟派そうな同い年ほどの男性が立っていた。そして、美紅が許可していないのに勝手に隣の椅子に座り、「一緒に飲もうよ」と言い始める。

「えっと、困ります……」

異性とほとんど無縁の生活を送っている美紅は、どう対処すればいいかわからず、戸惑いながらも答えた。しかし、男性は美紅の言葉が聞こえていないかのようにバーテンダーに注文する。

「彼女にホワイトルシアンを」

数分もしないうちに美紅の前にカクテルが置かれる。コーヒーリキュールの黒とその上に乗せられた生クリームの白が美しいカクテルだ。

「このカクテル、すごくおいしいんだよ。飲んでみて。俺が奢るからさ」

ジッと男性に見つめられ、美紅は迷ったもののグラスを手に取る。この一杯を飲んだらさっさとこの男性から離れよう、そう思いながらカクテルに口をつけようとした時、横からグラスを奪われてしまった。

「悪りぃな、坊主。こいつは俺の連れなんでね。女にちょっかいをかけたいなら、他を当たってくれ」

そう言い、美紅に渡されたカクテルを飲み干したのは、190センチはあるであろう体格のいい男性だった。筋肉質な体に、クシャッとした癖毛、釣り上がった目をしている。

「ひっ、すいませんでした!!」

体格のいい男性に睨まれ、美紅に声をかけてきた男性は情けない声を上げながらバーを足早に去っていく。その後ろ姿を呆然としながら美紅は見つめた後、我に返り男性に頭を下げた。

「あ、あの、ありがとうございました……」