午前零時のジュリエット

婚約者はそう言うと、勢いよく部屋に置かれたソファに腰掛け、使用人が持って来てくれた紅茶を飲み、クッキーを口に運ぶ。

「……はい」

この男性と、もう一ヶ月後には結婚式を挙げて夫婦になっているのだ。家のためには彼と結婚しなくてはならない。しかしーーー。

(この人と結婚するなんて嫌!結婚をするならーーー)

頭の中にふと航の顔が浮かぶ。顔がカッと熱くなり、美紅は何故航の顔が浮かぶんだと思いながらも、婚約者の前に座った。

「とりあえず、結婚後は寝室は別。俺、ていうか帰らないから。でも子どもは早いこと作った方が親がうるさくないし、とりあえず一人は早めに作るつもりだから。二人目とかはお前が不妊になったことにしよう」

ツラツラと話す婚約者に対し、美紅の心に不満が溜まっていく。子どもを早く作ろう、二人目は不妊になったことにしよう、自分勝手にも程がある。

「お前と結婚するのは、お前の家があの羽富だからだよ。それ以外に何もない。一応世間では夫婦ということになるけど、恋人は作るつもりだから。でも、お前は浮気するなよ?男の浮気はいいけど、女の浮気なんてみっともないからな」

紅茶を思わず美紅はかけてしまうところだった。こんなにも好き勝手なことを言う相手の言葉など、聞きたいと思うはずがない。

(私の、本当に好きな人はーーー)