ありがとうって伝えたい 祖父編

「えー！？　そんなことできるんですか！？　すごーい！」

『すごいでしょー？　この世界でしかできないからくノ一にはなれないけどね？』

　談笑していると突然懐かしい感覚が突風のように花那の中を通過していったのがわかった。

『ふ、冬実……そ、その、お、俺とけけけっ結婚しちぇくれ！』

　脳みそが茹(ゆ)で上がってしまうほど頭が火照(ほて)っていつもは流暢(りゅうちょう)に回るこの口が憎らしいことに全然思い通りにならない。今すぐに逃げ出したいくらい恥ずかしいのに、この胸を焦がすような恋しさを吐き出してしまわなければ死んでも死にきれない。

　花那は「はっ」と短く息を吐いて夢から覚めたような気になった。今のは一体？　掠(かす)れたような祖父の声とは別人なほどよく張った若々しい声だったが、あれは間違いなく祖父の声だったという確信があった。祖父の若かりし頃の情景がその時抱いた想いが、花那の中に流れ込んできた？

『そうだよ花那ちゃん。ここにはおじいちゃんの思い出がいっぱいつまっているの。ゆっくりでいいからおじいちゃんの思いに慣れていってね？』

　景の言葉を理解するより先にまた懐かしい感覚を引き連れた風が花那の中を通過する。