ありがとうって伝えたい 祖父編

「呼びかけに応じ死者の霊の顕現(けんげん)が適った後、その霊は二度と現世に顕現することは適わなくなります。今このときで構いませんか?」

 緊張しているのか父は微かに震えながら応える。

「は、はい」

 景は厳かな雰囲気を(ほころ)ばせ慈愛と祝福に満ちた笑顔をみんなに惜しみなく振りまき、居住まいを正して言った。
「かしこまりました。これより降霊の儀を執り行います」

 景は透き通るような深い呼吸を繰り返し、大きな拍手を何度も打っていく。すると花那の意識が徐々に遠のいていく。睡魔に襲われたときに似ているが、眠気ほどはっきりした感覚ではなく、だからこそ抗える気がしなかった。

「あれ!?」

 眠りから覚めたみたいに意識を取り戻すと、花那はいつの間にか知らないところに一人でいた。かなり戸惑う。みんなはどこに行ってしまったのだろうか?

 一生懸命に見渡しているけれど右も左も上も下も暗いのか明るいのかすらわからない。無がどこまでも遠くまで広がっているような世界だった。

『花那ちゃんこっちこっち』

 突然現れた光を纏った景に手を引かれて腰が抜けそうになるほど驚いた。

「ええ!? もしかして景さんですか?」