ありがとうって伝えたい 祖父編

「本日はお招き頂き誠にありがとうございます」

 静かに(ふすま)を開けて、一歩祖父の部屋に入室すると膝を折り深く頭を下げて景が言った。昨日見かけたときと同じ着物のような袖の純白のブラウスを着ていた。

桜守(さくらもり)(ひかり)と申します。よろしくお願い致します」

 部屋の窓から差す日の光が反射しているせいか、景の丸まった身体が(あわ)く輝いているように見える。輪郭(りんかく)すら曖昧(あいまい)に見えて、物珍しさのあまり景をまじまじと見つめていると顔を上げた彼女と目が合う。

 花那の()めるような視線にも嫌そうな顔一つせずに優しく微笑みかけてくれた。神秘的な輝きを纏っているからなのか、昨日よりも入念に化粧をしているからなのかはわからないけれど、その笑顔はとにかく綺麗で顔が熱くなってしまう。

「それでは降霊の儀を執り行う前に改めてご確認させて頂きます」

 景の言葉を聞いて花那、両親、祖母の背筋が伸びる。色々な要因で降霊が成功しない場合もあるようなので、大々的に親族や祖父の友人を集めるような事はせず、家族だけでひっそりとやった方が無難という判断だった。