「次は透の出番だ…。」

次は透の借り物競走。この種目が終わったらきちんと話そう。

「用意!」
パン!

スタートのピストルと共に選手は走り出し、明るい音楽が流れる。

「おっと!赤組がすごい勢いで紙まで走り、紙を手にしました!」

赤組は透。1番で紙を取った。そして、走ってこちらへ来る。なんの借り物だろう?

「陽菜!一緒に来て!」

まさかの指名に驚きながらも差し出された手を掴む。

「と、透?なんの借り物なの?」

透は私より速いのに私に気を使って少し遅く走ってくれる。私は1位になるようになるべく本気で走る。

「好きな人!だ!」

一瞬だけ私の方を向いて満面の笑みを浮かべる。好きな人?やっぱり西園寺さんが言ってたの嘘だったんだ。
本当に西園寺さんが好きなら、
私のためを思って離れようとしてるなら、
私も話さない方がいいと思ったけど、嘘だったんだ!良かった。
涙が滲んできたからバレないように拭いて、ゴールテープを切る!

「ゴール!1位は赤組!お題は『好きな人』でした!」

「陽菜!1位だ!」

「うん!やったね! 」

透は興奮してるはずなのに優しく抱きしめてくる。私は色んな安堵でこっそり涙を流しながら背中に手を回した。

「帰ろうか、陽菜。」

運動会は無事終了。私とこうくんのクラスが勝って、透のクラスは負けたけど透は喜んでくれた。片付けを終えて今は帰り道。

「あのさ、透。」

「うん?どうした?」

透はいつも通り優しい声色で返事をする。

「透って私のこと好きなんだよね?」

「どうした?突然。」

突然聞いたから不思議そうにしてる。

「私がこうくんと仲がいいからって私と別れたりしないよね?」

透は私の方を向くけど、夕日が反射して顔が暗くてどういう表情をしてるか分からない。

「する訳ないよ。堂本君とはただの友達って知ってるし、もし嫌だったら、堂本君と戦うよ。だから、陽菜と別れたりしない。」

良かった。でも普通、自分の気持ちを疑われたら怒らない?なんでだろう?

「…陽菜はなんでそう思ったの?」

「私は、…。
西園寺さんと透がキスしてるのを見た後、西園寺さんが透は私と別れようとしてるって言われて。」

「ふーん。そっか。陽菜は俺より澪の言葉を信じるんだ?」

顔は相変わらず分からないけど不満そうな声。

「あ、ごめんなさい。」

確かに今のは悪かったよね。だって、透はあんなに愛情表現してくれたのに西園寺さんを信じるなんて。

「…やっぱり。」

「?透なんて?」

なんて言ったか聞き取れなかったから聞き返すと抱きしめられる。

「陽菜。俺信じて貰えなくて悲しかったからキスしてくれない?」

えー!突然だけど、今回は確かに悪かった。それに私も透の愛情をもっと感じたい。だから、私は目を閉じて顔をちかづける。

夕日に照らされながら人通りの少ない道で静かに唇を合わせた。