嬉しいことに、なぜか最近ちょくちょくアクセサリーの発注がある。
売れっ子とか、話題になってるとかじゃないけど、暇を感じずに済むくらいには依頼がきて本当に有り難い。


(……哉人さん、大丈夫かな)


絶対に、いつもどおり無理して完璧にこなしてるんだろうな。
ふと、スマホのバイブが鳴って顔を上げた。
私のスマホじゃない。


「あ」


お兄ちゃんの社用携帯だ。
いつもの私用のスマホは見当たらないから、会社のだけ忘れていったみたい。
らしくない――というか、私が急がせたんだった。


(どうしよう)


連絡したら、迷惑かな?
でも、失くしたと思って探してるかもしれない。
何より、大切な連絡を取れなくて仕事に支障が出てるかも。


「……っ、はい! 」


――と、迷っていたところに、今度は私のスマホが鳴った。


『あ、まゆり? 出るの早いな。もう寂しかった? 』

「……寂しかったですけど。ちょうど、哉人さんがスマホ置いてったの見つけたので」


つい待ち構えていたみたいに秒で出てしまって、楽しそうに笑われてしまった。


『あ、やっぱりあったか。よかった、探してたんだ』

「さっきも鳴ってたんですけど、放っておいて大丈夫ですか? 緊急とか」

『うーん。全部仕事関係だから、それなりの用なんだろうけど。仕方ない、後で謝るよ』

「よかったら、持って行きましょうか? 哉人さんは抜けれないでしょうけど、私が入れるとこまででも」


このうえ、余計なことで謝らせたりしたくない。
ほとんど私のせいだし。


『この後会議なんだよ。俺は会えないかもしれないし、他のやつと話すの嫌だろ』

「大丈夫です。でも、不審者にはなりたくないから、ある程度話を通してもらえると」


他の一般企業でも難しいと思うけど、お兄ちゃんの会社はまず私なんか通してくれないはず。


『了解。本当にいいのか? 無理だったら連絡くれたらいいから』

「お使いくらい大丈夫ですよ」


実はものすごく不安なのがバレないように、なんてことないって言ってみたけど。


『助かる。……あ、そうだ。まゆり? 』

「あ、何か持っていくものあります? でも、関係を証明できるものなんて何も……」


(……信じてもらえるだろうか……)


そうは言っても、仕方ない。
信じてもらえなくても、とりあえずスマホがお兄ちゃんに渡ればいいか――……。


『そんなの要らないよ。……妻ですって名乗ればな』

「……よ、余計怪しくないですか……!? 」


絶対、不審者扱いされる。
ストーカーと思われるかも。
悲しいことに、信じてもらえるより絶対その方が可能性高すぎる。


『ほぼ事実だろ。じゃあ、他になんて言うつもり? 同居人? 』

「……そ、それは。こ、婚約者ですって……だって」


他に言いようがない。
だって、それが完全な事実だ。


『素直。でも、それじゃダメ。ちゃんと名乗れよ、奥さん』

「でもっ、あの……! 」

『じゃ、すぐ通れるように話しとくから。悪いけど、よろしく』


(……つつつつ、妻……)


ただのお使いだっていうのに、セキュリティ突破できる気がしない。
対応策なんて一つもないなら、これはもう祈るしかない。

――どうか、捕まりませんように。