『ひとまず、よかったわ。ドレス着てもらう前に発覚なんて、まゆりちゃんにもご両親にも申し訳ないもの』


逃げ回った後、嫌と言うほど――嘘、嫌なわけがなかった――甘やかされてから、「責任取ろうな」と言われたお仕置きがこれ。


「騒がせて悪かったよ」


ベッドの上で後ろから抱っこされて――スピーカーホンで親子の会話を聞かされている。


『それにしても、ある意味よかったわ。まゆりちゃんは本気だったってことよね』

「そんな子じゃないよ。まあ、あんなことするくらい俺のこと本気だってことで、許してあげたとこ」


(嘘つけー!! まだ怒ってるくせに……! )


精一杯、ジロッと睨むように見上げてみたけど。


「なーに。まだ、にーににごめんなさい、したいの? 」


(きっ、聞こえる……! )


「むこうに聞こえるって? いいよ、別に。真剣に将来まで考えてる仲だろ。それともなに? あれ、ふざけてたの? 」

「そ、そういう問題じゃ……っ」


真剣だったし、全力だった。
依子さんの為だけじゃないし、寧ろ自分の為だったかも。
私がそうしたかったからしたし、内容だって本気だ。
お兄ちゃんの了承は得てなかったから、そこは申し訳ない……けど……!


「……我慢しちゃって。必要ないことするの、可愛いな」


耳元でちゅって音させるのは、どういうお仕置き!?


「ひっ、必要に決まってるじゃないですか……! 」

「そう? 俺には必要ないけど。バレるも何も、事実だし隠してない関係だろ。許婚、彼氏彼女、婚約者だ」

「……っ、そこじゃないですー!! 」


身体にしっかり絡んだ腕以外は、ちっとも触れない。
ジタバタもがいて文句を言ってみるけど。


(……もしかして、こっちがお仕置きだったりしないよね)


唇が触れそうで触れないことに拗ねてるのを、バレたくないだけ。


「……だな。分かってるよ」

『哉人ー? 聞いてるの? 』


分かってない。
乙女心を分かってたら――……。


(……分かってたら、こんな仕打ち……)


……しないで、キスしてくれる――わけないか。
さすがに、家族の前……ではないけど、いちゃいちゃしてるのを聞かれたくないよね。


(そうだ、そう。私、何考えてるの。幸せボケしすぎ)


にーにからのお仕置きで、頭馬鹿になってた。
おばさんに聞かれてもいいから、さっさとキスしてほしいなんて、どうかしてる――……。


「キスしてもらえなくて、寂しかったの。よしよし。にーにが悪かった。ごめんな」


ちゅ。


「んなっ……」


そんな、嘘くさい音の後。


「シーッ。……ま、本当に俺はいいんだけどな」


絶対にそんなに音じゃないような、キスでお仕置き――……。


「意地悪しすぎたお詫び」

「〜〜っ、お詫び!? お仕置きの延長ですよね!?!? 」


そっちがその気なら、もう構うものか。
依子さんのご実家でしでかしたことを思えば、怖いものなんかない。


「罰ゲームみたいに言うなよ。彼氏に対して酷くないか」

「それを言うなら、お兄ちゃんこそ彼女に対してどういう意地悪ですか……! 」


こんな、公開処刑みたいなお詫びなんてあるわけない――……。


「なんで拗ねるかな。俺は、彼女にしかできない意地悪、したつもりなんだけど? 」


(ほら、意地悪でしかないじゃん……)


「ほら、納得した。だよな。だってこれ、まゆりがやったことをかなりソフトにやってるだけだし。強制公認」

「……強制してる時点で、公認とは言わないのでは? 」


そっか。
「口を挟むな」をやんわり、最大限迷惑な方法で伝える為。


「後はまゆりの仕事とか、やりたいこととかと折り合いつくようにこれから話し合って進んでいけばいい。な」

「お兄ちゃんの都合もですよ」


分かってる。
私たちは、誰の許可も必要としてない。
祝福してくれたら一番だけど、ただそれだけのことだ。


『気持ちはよく分かったわ。それはそれとして、とにかく順番は……哉人、そこは本当に……』


用は済んだとばかりに、音声が途切れる。


「哉人、だろ」


今までスルーしてたくせに、この先は「お兄ちゃん」ではダメだと。
少し子どもっぽくて、笑いそうになったけど。


「哉人さん……」


焦らされ続けた私は、早々に負けてしまった。