「……哉人さん」


気持ちよくて、安心して、今まで側にいなかったことが急に寂しくなる。


「ん? 言っただろ。誰がどう言おうと、俺はまゆりのものだって。どんな状況だって、それなら仕方ないなんてもう思わない。……まゆりが好きだ」

「……私も、です」


(……幸せ)


好きな人にそう言ってもらえて。
諦めないでいてもらえて。


「後は、家同士の問題だな。そっちは、本当に俺の仕事だから。まゆりはいいこにしてて。少なくとも、今後は相談してくれ。この前のこともあるし、お前の顔を見るまで気が気じゃなかった」

「……きっと、それはその。依子さんが説得してくれたんじゃないですかね……恐らく」

「さすがに、それは時間かかるんじゃないか? 簡単に聞いてくれるような親なら、そもそもこんなことになってないだろうし」


苦笑してそこまで言った後、お兄ちゃんの顔の筋肉がピクリと引きつる。


「……まさか、まゆり……依子さんと会った話、続きがあるんじゃないだろうな」

「つ、続きと言いますか、その……」


正確には、依子さんと会う前と言いますか。
とにかく「ごめんなさい」の形に口を開いた時、お兄ちゃんのスマホが鳴った。


「……はい。……ああ、うん。そうらしいな。でも、本当のことだ……え? 」


口を割らせるより電話に出た方が早いと思ったのか、恐らくおばさんから話を聞いて。


「……その件は、俺から確認させて。一旦切るよ。……分かってる。ちゃんとするから。……じゃあ、後で」


反射的にくるりと背を向けていた私を腕に連れ戻して、お兄ちゃんはにっこりと笑った。


「まゆり。俺に何か言いかけたことある? あるよな」

「……え、あの、その……すみませ」

「じゃ、ないだろ。謝ることは何もないよ」


壊れものみたいに触れる手が、今は恐ろしい。
謝りたいのに謝らせてくれないのは、この恐怖を味わわせる為だとしか思えない。


「ごめん。言いにくいよな。そうだよな」

「や、その、そうではなくて、ですね。ごめ……」


言わなくていいよ、って指先が唇に触れて、そのまま顎を持ち上げるとこの上なく優しい笑顔で言った。


「俺の子ども、妊娠したの? 気づかなくてごめん。でも、ついでに言うと」


――身に覚え、ないんですけど。


「ごめ、ごめんなさい……!! でも、そ、そこまでは言ってないと……だって、再会したばかりですし、さすがにそこまでは盛れない……」

「待て、逃がすか。盛るって何だ、盛るって。じゃあ一体、何て言ったんだ……こら、逃げるなって」

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!! 」


――抵抗空しく、5分もせず捕まって、罰としてベッドの上で散々にーにからのお仕置きを受ける羽目になりましたとさ。