クラクラして、ただ掴まるしかできない。
とろんとした目は何を見ているかすら定かじゃないのに、それでも最後まで閉じようとはせずに抗い続ける。


「可愛い」


絶対嘘って言いたくなるような、余裕綽々の「可愛い」も。
クスッと漏れる楽しそうな吐息も。
さっきと比べるとちっとも焦っていない触れ方も全部ムカつくのに、甘い優しさが心地よくて反論すべき点が何も見つからなかった。


(……どうしようもないくらい、好きだ……)


もう絶対、離したくない。
それならもう、逃げることなんかできない。
恵まれた環境から飛び出した私は、何も持ってないけど。
この人を手に入れる為なら、何だってしようと思えるくらい好きになってしまった。


「……あのさ。首、痛くない? 」

「……この状況で何ですか……。どうせ、お兄ちゃんに比べたらちんちくりんですけど、そんな……」


その勢いが出てしまったのかもしれない。
急に色気のないことを言われて、決心が萎んでしまう。
だって、どんな断り文句だ。
ううん、それを言うなら、私に色気がなさすぎてそんな気が失せたんだろうな。
でも、そんなこと分かりきってると思うのに。
それともやっぱり、思った以上にキスが下手すぎるとか。
でもでも、それも今更だし、そこは長い目でひとつ――……。


「妄想思い込みタイムに入ってるとこ悪いけど、違うから。なに勝手に終わりにしようとしてるの」

「え……? 」


確かに、お兄ちゃんを見上げてばかりは正直首が痛い。
でも、そんなの感じる暇もなかったのにわざわざ言うなんて、終わらせようとしたのはお兄ちゃんの方――……。


「移動しようかなって。……哉人さん、止めるなんて一言も言ってないだろ」


(……あ……)


考えてることがバレたのは分かる。
でも、呼び方までバレバレなんて。
心の中で「お兄ちゃん」って呼んだことまで訂正されて、何だかやましいことをしてしまったみたい。

どこか、ソファじゃないところ。


「……うん……」


そこはお姫様抱っこじゃないのが、哉人さんだなって思う。
その気がなかった時には、あんなに軽々……じゃないかもしれないけど、運ばれて閉じ込められてしまったのに。
今は、そっと手を引いて。
私の気持ちを、また確認した後は。


「おいで」


――この期に及んで、優しく、自分だけの責任にしようとしてくれる。