「あいつです!あの女に頼まれたのです!」
「娘に脅されて…とても逆らえなくて!ああ、悍ましい…嫉妬に狂い、聖女様を殺害しようとするなんて!」

なに?

「プリマヴェーラ、動くな。城も包囲してある。どこにも逃げ場はないぞ。」
「プリマヴェーラ様、どうして……っ!私、私……っ!」

何が…起こっているの。

騎士に抑えつけられ、貴族___友人達も含む__大衆に囲まれながら、1人中心でこうべを垂れている。

「陰謀でございます、陛下…わたくしは一度も、聖女様を害そうなど考えた事はございません……!」

「嘘をつくな!陛下、全て娘が仕組んだ事でございます!この私、身を削って過ちを認めます…どうか……!どうか家族だけは!」

「家族」であった筈のもの達が何かを喚いている。もう大体理解した。

わたくしは今、両親が犯した罪を押し付けられているのだわ。
伯爵令嬢とはいえ、ただの小娘。王家と古くから親交のある公爵家を取り潰すより、プリマヴェーラが行ったことにした方が都合が良いのだろう。

(……まだ、アルフォンソ様との婚約が続いていれば違ったのでしょうけど…)

ちらりと元婚約者の顔を見やる。夜の湖を思わせる涼やかな瞳が、聖女クラリスに向けられている。見たくもないと言うことか。
抱かれた肩や回された腕に僅かに残った淡い想いが反応するが、今はただただやるせない。

2人のことは仕方がないと割り切り、静かに身を引くつもりだった。身を焼くような嫉妬が無かったわけではない。しかし、プリマヴェーラは従順であり、同時に理性的な女性だった。

しかし今となっては、プリマヴェーラがどう思っていたなど…全くもって関係のない話。
王家がわたくしを悪役にする事を決めたのだ。

もう覆らない。

「ふふ…っ」
人はどうしようもないと笑ってしまうのね。___ああ、知りたくは無かったわ。

「伯爵令嬢を投獄しろ。聖女殺害未遂を犯した罪で、死罪とする。」

冷たくて重い床を引き摺られていく。ガチャガチャと喧しい、わたくしを罵る声。おぞましい、白々しい両親の顔。
アルフォンソ様______

最期に視線がかち合ったような気がしたが、確信よりも先に鉄の扉が閉められた。