その美しいと形容するにふさわしい佇まいを見ても、やはり古庄の心はピクリともざわめかなかった。
古庄ももう一度頭を下げ、静香と目を合わせることもなく、そこを後にした。


門の外に出て早足で少し歩き、芳本家から遠ざかった古庄は、道端で「はぁ〜」と大きな息をついた。真夏の熱気にもさらされ、一気に汗が噴き出してくる。


とにかく、なんとか静香との婚約は解消できた。

手の甲で汗を拭うと、


「ああー……」


と、やらねばならぬことを成し遂げた安堵の声がこぼれ出てくる。


蝉の大合唱が鳴り響く中で脱力して、快晴のどこまでも青い空を見上げた。

そして、やっと(しがらみ)から解放されて、この空のように曇りのない澄んだ心になれたと思った。