真琴が多忙な日常生活に追われる中で、意識にはほとんど浮かんでこない静香の存在。それをいきなり、目の前に突き付けられたような感覚だった。


複雑な表情を見せる真琴に、古庄はニコリと笑って見せた。真琴はそんな古庄の寸分の狂いもない笑顔から顔をそむけて、唇を噛む。


「……今ごろ、……ですか?」


古庄と静香の結婚が破談になってから、かれこれ半年が経つ。


「うん。そもそも芳本さんから最初の連絡が来るのが遅かったし、途中で『もう払わなくていい』なんて言い始めて……、押し問答があって、やっと金額と振込先を教えてくれたんだ」


「押し問答ですか……」


真琴はいっそう険しい顔になって、やっていた仕事も手につかなくなった。
静香のことを思うと、いつでも罪悪感に追いかけられる。目の前にいる古庄と、こんな風に話をするのだって許されないような気持ちになってくる。


「結婚式場を予約するのだって、披露宴の内容だって、俺の了承も得ず契約していたわけだから、芳本さんも負い目があったんだろうな。でも、俺も黙認してたし、俺の都合で破談にしたんだから、全額でも払うつもりだったしね」