止めようとするほど涙は止まらない。



「ナユ嬢が泣いてるなんて珍しいな?」
「レイン様…!?」


薔薇園からすぐでてすぐのヒマワリ花壇。
そこで涙を止めるために立ち尽くしていると後ろからレイン様から話しかけられる。


「それでクールなナユ嬢がどうして泣いているんでしょうか?」
「…別に泣いてなんかっ!」
「泣いてるでしょ。 折角綺麗な顔してるのに勿体ねぇよ」


私が何も言えず下を向く。


「ナユ嬢は頑固だねぇ。 俺に涙もふかせてくれねぇの?」
「必要ありませんわ」
「一回エスコートした仲じゃねぇか」


そういいながら私の頭を撫で、そのまま私の頬を伝い顎で止まる。
そのまま私の顎に手を添えるとそのまま顎をクイっと持ち上げて顔を無理やり上にあげる。
目の前にレインの顔が現れる。
その隙間は数センチもない。

まるでキスをする直前みたい…。

その驚きからかいつの間にか涙は止まっていた。



「…ナユに何をするんですか!?」



突然の後ろから聞こえる声に振り替える。



「あぁ…! 本当に貴方は女性にだらしないんですね!」
「ルヘン!?」
「おお! これはリリー嬢にルヘン坊ちゃんじゃねぇか」
「いいからその汚らしい手を離してください」


ルヘンは私達に近づくと強引に私を引っ張った。


「ルヘン、大丈夫よ!」


誤解を解かないといけない。
そう思いルヘンに話しかけるか、彼は私の顔を見て凍り付く。


「ルヘン?」
「…アイツなの?」
「え?」
「アイツがナユを泣かせたの?」


そっか。
私さっきまで泣いてたから…!


「おいおい! 何を勘違いしているかしらねぇけどよ。 俺はナユ嬢が泣いてたから慰めてやってただけだぜ? 同じ国の美しき貴族令嬢が泣いてたら慰めてやるのが紳士の務めだろ?」
「レイン様、それは本当ですか?」
「リリー嬢。 アンタに誓ってやるよ。 俺が女を泣かせるときはベッドの中って決めてるからな」
「っは、ハレンチよ!」
「はは。 リリー嬢はウブだなぁ」


レインの言葉にルヘンはまだ疑っているのか睨みつける。
それがレインにも伝わったのかレインを肩を落としながら、リリーに向かってを手を差し出す。


「そこまで気になるんならナユ嬢に直接聞くんだな。 その間、リリー嬢のエスコートは任せておきな」
「え、えっと…」
「お手をどうぞ」
「ルヘン、その子が例の子だったら後悔しちゃだめよ」
「ほほう。 例の子っつーのは気になるねぇ。 教えてくれるかい?」
「ダメよ。 ルヘンのプライバシーに関わるわ」
「そりゃ残念」


レインはリリーをエスコートしながら立ち去って行った。

あまりの急展開についていけいないが、それよりも…。
さっき失恋したって自覚したばっかりだから二人っきりはキツイ。


「ナユ、アイツが言ってたことは本当なの?」
「え、えぇ。 本当よ」
「じゃあ何で泣いてたの?」
「そ、それは…」


貴方に失恋したからって言えるわけない!

でも、言った方がきっと楽になる。
それに貴方は攻略対象で私はモブ。
絶対に結ばれないのだから今のうちに玉砕して、次の恋愛にシフトした方がいい。
そう思い私はゆっくりと口を開いた。


「ルヘンがララ様のことが好きだと聞こえたから」
「え」
「そしたら涙が止まらなくなって、自覚したの。私は…「ちょっと待って!」…何よ?」


顔を真っ赤にしたルヘンが視線を泳がせながら大きな声で遮る。
そうまでして告白を止めたいのかと思ったが、その表情に微かに希望がよぎる。

って、ルヘンが私に構うのは私がララ様に似ているだけで…。


「それは僕に言わせて…!」
「え?」
「ナユ。 僕は貴方が好きです。 大好きです。 だから僕と結婚を前提にお付き合いしていただけませんか?」
「う、うそ! だってルヘンはララ様が…!」
「それは姉上の勘違いだよ!!」
「勘違い!?」
「あの後姉上には説明したんだけど、ララ様ではなくあの時のパーティーに来ていたナユ、貴方に一目惚れをしたんだ!」
「え、ええ!?」
「あの時僕は初めての大きなパーティーでとても緊張していて、周りを見れてなかったんだ。 案の定一人の女の子とぶつかってしまって相手の令嬢に怪我をさせてしまったんだ」


ルヘンの話に「あっ!」と思い出す。
確かに私も四国合同のパーティーに出席していた。
他の海の国から来ている令嬢とお話しようとそちらに行こうとした時、一人の男の子のぶつかった。
その際に足をくじいてしまい、軽い捻挫状態になった。
まぁ慣れないヒールだったからより痛みを感じたのは覚えている。
でもあの時には相手は子どもだしと思ってにこやかに対応したはず。


「足を怪我して痛いはずなのに僕に向かって綺麗に笑って”私は大丈夫ですわ。 貴方は?”って僕の心配までしてくれてさ。 その時の笑顔がずっと忘れられなかった」


ルヘンは私をじっと見つめる。


「あの時は名前を聞けなくて、お父様とか周りの貴族たちに聞いて回ってあの時の子がナユだってすぐに分かった。 分かったけど気軽に会える距離じゃなかったから教室で君を見つけたときは運命だと思った」


私の手を両手で包み込む。


「絶対逃がしちゃいけないって。 だから僕が好きなのはララ様じゃないんだ。 君なんだよ。 ナユ」


頬を赤く染めたルヘンが少し困った顔で微笑む。


「信じて貰えたかな?」


いつまでも無言の私に仔犬のような目で見つめる。
私は「えぇ! 信じるわ!」と告げると思いっきりルヘンに抱き着いた。
彼は私の言葉に熱い口付けで答えてくれた。

めでたし、めでたし。