何かの缶詰を手にしていた桂木がオレ達の存在に気づく。


まるで空気が凍りついたみたいに、一瞬、誰も声を出すことができずにいた。


そんな沈黙を破ったのはチアキ君だった。


「ママ!」


飛び跳ねるようにスミレの方に駆け寄ってくる。


「あっ、こらっ!」


桂木がチアキ君の襟首をつかんで引き寄せる。



そんな二人の様子を黙って見ていたスミレが口を開いた。


「会社は?」


「夏休みだよ」


「そっか……」


「……っていうか、キミ……」


桂木はオレの方へ目を向けた。


「ああ……そっか。キミ達……そうだったんだね」


オレ達の様子を見て、何かを納得したような顔をする。



「そっか。そういうことだったのか……。オレ、何も知らずに……悪かったね」


人の良さそうな笑顔を向けて、恥ずかしそうに頭をかく。



ジーンズにTシャツ。

ラフな私服姿の桂木は先日予備校前で見た時とは印象が違って見えた。


エリート社員でもなんでもなくて、なんていうか、普通の父親……って感じ。