スミレさんはさも当たり前って感じで、いつもどおりのクールな表情をしている。


オレはハァ……と大きく息を吐き出した。



腕を伸ばして、彼女を引き寄せる。


彼女の髪に顔をうずめて、体をギュっと抱きしめた。


「サトシ君……?」


オレの胸の中でか細い声が聞こえる。


一瞬、彼女の体が震えているような気がしたけど、それは勘違いだった。

震えが止まらないのはオレの方だ。



「良かった……。オレ、振られるんかと思った」


やべっ

なんか泣きそう。


横を通りすぎるマンション住民が見て見ぬふりをしつつも、こちらをチラチラ伺っているのがわかる。

オレの腕の中でスミレさんがもがく。


「ちょっと。サトシ君っ。人が見てるから……離して!」


「だめ」


オレはさらに腕に力を込めた。


「離したくない。今離したら、逃げていきそうやから」