ミーコの顔が歪む。

泣きそうなこの表情をこれまで何度も見た。

だけど、ミーコはいつも絶対に涙を零さないんだ。


「わざと……っていうか。ああしか言えなかったんです。スミレさんに恋人がいるなら、サトシさんが傷つくんじゃないかって思って……。でも、どう伝えればいいかわからなくて……頭ン中ぐちゃぐちゃで……それで……」


一瞬言葉を詰まらせたミーコ。


「あたしが悪者になれば良いって思いました。……って、あんまり意味なかったですけど。あんな言葉で諦めさせるなんて無理ですよね」


ヘヘって眉を下げて笑う。

そしてペコリと頭を下げた。


「気を悪くさせてしまってごめんなさい。ホントにあんな風に思ってるわけじゃなかったんです。スミレさんが素敵な人だってことはわかってます」


途端に芽生える罪悪感。

知らなかったとはいえ、オレの態度も悪かった。


「いや、オレもごめん。キツい言い方してしまって……」


ミーコは黙って首を横に振る。


「良かったら、また家政婦として、うちに来てくれる?」


今さら虫がよすぎるかな……。


ちょっと不安になりながら、そう言うと、ミーコはパッと顔を上げた。



「行っても良いんですか?」


「ああ。お前の手料理おいしいからな」


ミーコはちょっと照れるように「エヘッ」っと笑った。


「じゃな」


走りだしたオレをミーコが呼び止める。


「あ! サトシさん!」


「ん?」


振り返ると、ミーコはにっこり微笑んだ。


「大丈夫。きっと上手くいきますよ」


「おう」



オレは軽く手を振って、駆け出した。


ちゃんと本人に確かめよう。


どういう結果でも受け止める覚悟はある。


そう思いながら、スミレさんのマンションへ向かった。