スミレさんは店の奥の棚へ向かう。

そこには軽く百枚以上はあるんじゃないかってぐらいレコードが並べられている。


それらはすべてスミレさんのお祖父さんがコレクションしていたものらしい。



スミレさんはその中の1枚を取り出すと、ターンテーブルに乗せる。


いまどきアナログ盤なんてすごくめずらしい。

オレなんてクラブでしかお目にかかったことがないぐらいだ。


常連客の中には、ジャズを聴くためにラファロに通ってるって人もめずらしくない。


そういうオレもすっかりハマってる。

アナログ独特の柔らかい音は耳に心地良かった。

今度レコードプレーヤを買おうかなぁ……なんて思ったりしてるぐらいだ。


スミレさんがレコード針を落とす。

プッ……プツ……って感じのレコード特有の引っかくような音が響いて。

それからゆったりとしたピアノが流れ始めた。



「あ……」


曲に反応してルウさんが顔を上げた。


「ビル・エヴァンスの"My Foolish Heart"や……」

「ええ。祖父が好きだったんです」

スミレさんが静かに答えた。



「ルウさんてジャズ詳しいんですか?」


オレの問いかけにルウさんは「ううん」って首を横に振る。


「全然詳しくないよ。でも、この曲はすごく好き」