「さぁ、それはどうかな……」


「なんやねんそれ。オレは好きやったけど」


「え?」


目を丸くして驚くコウカさん。

オレも今初めて気づいたこの気持ち。


そうだ。

あの頃、オレやっぱ、この人のことが好きだった。

それは中学生ぐらいの男にありがちな、年上の女性にたいする憧れ……みたいなもんだったけど。


キレイに手入れされた長い爪とか。

体から漂う甘い香りとか。

同級生の女の子とは違う何かをこの人に感じていたんだ。


好きには色んな“好き”がある。

オレらの間に愛情がなかったなんて……やっぱり言い切れないんじゃないかと、今思った。


何年か越しのオレの告白に、コウカさんはフワリと笑った。


そして「ありがとう」と声には出さずに唇を動かす。



「コウカさん、幸せにならなあかんで」

「誰のために?」

「自分のために」

「それだけ?」

「じゃ、オレのためにも」

「なにそれー。ふふふ」


見つめ合って、まるで何かの約束をするかのように、オレ達はそっと指を絡ませて。

それからきっと最後になるであろう口付けを交わした。