ミル*キス

「いただきます」


両手を合わせて頭を軽く下げる。


「不味いかもしれへんよ」


「カレーぐらい小学生でも作れるやろ」


「うるさいなぁ……」


「う”っ……」


まさかと思ったけど、ほんとに不味かった。

ありあわせで作ったカレーには肉も入ってなくて、にんじんはまだ生煮えで、逆になぜかじゃがいもは溶けて原型をとどめていなかった。


でもこれがこの人の味なんだと思った。

不器用な表現しかできないこの人の。


「スッキリしたわ」


生煮えのにんじんを口に入れながらそう言うと、「え?」と母は驚いたような声を上げた。


「はっきり言ってもらってスッキリした。隠されるより全然まし」


「そ……」


言葉選び、間違ってないよな?


チラリと母を見ると、ちょっとだけ安心したような顔をしていた。

だからこれで良いんだと思った。



もう二度と父のことを尋ねることはしない。

執着することもない。


最初からいないと思えば、なんでもないことなんだ。


がつがつとカレーを頬張りながら、オレは自分にそう言い聞かせた。