ミル*キス

何かしでかしたのかと、そちらに目をやると、母が炊飯器を覗き込んでいた。


「まさか……」


オレの勘は当たってた。


「ご飯炊くの……忘れてた」


「アホぉ――。なんやねん、それ」


ガクっと脱力して、オレもキッチンの中へ入った。


「外、食べにいこうか」


母は申し訳なさそうにそう言った。

オレは鍋の蓋を開けてカレーの匂いを嗅ぐ。


「そんなん、もうめんどくさいわ。つうか、オレ、もう腹がカレーモードやし。ええやん別に飯なくても。カレーだけ食ったら」


そう言って、ちゃっちゃと自分の分を皿によそった。


「オカンも食うやろ?」


さらに母の分も。




なんでうちのダイニングテーブルは無意味にでかいんだろう。

向かい合って座るオレ達に会話はなかった。


兄貴が出て行ってから、ずっとそうで……。

こんなの当たり前だったんだけど。

ほんとにこの家で二人きりになったんだと実感した。

ここで二人で生きていくんだと。