ミル*キス

いつの間にか眠っていたようだ。


時計の針が午後10時をさしていた。


ベッドから降りて鏡を覗き込んだ。

もう、泣き顔じゃなかった。


これなら大丈夫。



――ぐ~……って。

こんな時でも腹は減るもんだ。


オレはヒタヒタと階段を下りてリビングに向かった。


ドアをそっと開けると、中から母の声が聞こえてきた。


「……あの子は……昔からそう……」


誰かと電話でしゃべってるようだ。


「大人の事情も全部わかったような……見透かすような目してて。だから、あたしは甘えてた」


なんとなくだけど、相手は相沢さんのような気がした。


「でも……まだ早かった……。まだ言うべきじゃなかった……」


そこまで言ったところで、気配を感じたのか後ろを振り返った。


「サトシ……」


ガラス越しに目が合った。


慌てて目を擦る母。

その目は真っ赤に充血していた。


この人が泣いているのを初めて見た気がして、オレも動揺した。


「あ。ごめんなさい。後でかけなおすから……」


それだけ言うと、母は電話を切ってしまった。