今もうっすらと記憶に残っている。


10年前のあの日。

薄暗い雑木林でひざを抱えて震えていたオレ。

オレのそばにはあの人がいた。

覚えているのは……

耳たぶにあったピアスみたいなホクロと、片足を引きずるような特徴のある足音。


「大丈夫……大丈夫……」

そう呟いたあの人の、手のぬくもりと

舌の上に広がった、甘い……ミルキーの味。


あの人の名前は何だっけ……?

たしか……。





「……シ君? ……サトシ君っ!」


その声にハッと顔を上げると、目の前にはすでに完璧にメイクが仕上がったトモミさんがいた。


「大丈夫? なんか急に顔色悪くなったけど……」


「ああ、うん」


これ以上ここにいる意味はないな。


そう思ったオレは立ち上がって玄関の方へ向かう。