ミル*キス

そこには中学生のオレからしたら信じられないほどゼロがたくさんついた金額が記載されていた。


「なんやこれ……」


こうして数字を目の当たりにすると、母の言ってたことも真実味を帯びてきた。


「ハッ……」


ため息とも笑い声とも区別がつかないような声が口から漏れた。


「――ツッ! なんやねん、これっ」


吐き捨てるように叫んで、通帳をテレビ画面に向かって投げつけた。


父親のことをずっと隠されていた理由がわかった。


いくら母親らしくないあの人でも、こんな事情、子供に聞かせたくなかったはずだ。


最初からオレに“父親”なんていなかったんだ。


ほんとは心のどこかで期待していた。


ガキの頃からオレの中にある父親像は相沢さんだった。

優しくて頼りがいがあって温かくて……。


ずっと兄貴がうらやましかった。

相沢さんの息子である兄貴が。


オレにもあんな父親が、この世界のどこかにいるんじゃないか……ってそう思いたかった。


でも違った。


捨てられたんだ。

母親ごと。


――望まれてなかった。

オレの父親はオレが生まれてくることを望んでいなかったんだ。

金で解決されて……捨てられた。


「なんやねん……それ……」