ミル*キス

店の事務所みたいなところに連れて行かれたが、盗んだものがチロルチョコだけだったということから、コンビニの店長は警察には通報しないでくれた。


代わりに呼ばれたのは母だった。


母は店員の目の前でオレの頬を平手打ちし、それから深々と頭を下げた。


まるでドラマでも見てるような気分だった。

この人は母親らしく演じているだけの女優だ。




家に帰るまで、オレ達はずっと黙ったままだった。


逃げるように自分の部屋に引きこもる。

むしゃくしゃしながらもとりあえず部屋のテレビをつけた。


夕方のニュース番組で流れていたのは『新内閣発足』の文字。

政治なんて全然興味なかったけど。

何も考えたくなかったオレはその映像をぼんやり眺めていた。



するとしばらくして、母がやってきた。


無表情で、明らかに不機嫌そうだ。


オレの目の前にすっと手を伸ばした。


また殴るのか?

身構えたオレの目に映ったのは、なぜか銀行の通帳と印鑑だった。


わけがわからず、それらと母の顔を交互に見比べていると、抑揚のない声が耳に届いた。