ミル*キス

オレはチラリと目の前の席についている母を見た。



かつて、この二人は恋人同士だった。


二人は同じ大学の先輩と後輩という間柄だった。


2年間続いた交際は、相沢さんの卒業と同時に破局を迎えた。

彼が建築デザインの勉強をするためにノルウェーへ渡ったからだ。


当時はまだ北欧のデザインは、今ほど日本でもてはやされていなかった。

ある意味彼には先見の明があったんだと思う。


いつ帰ってこられるかわからないからこそ、相沢さんも「待ってろ」とは言えなかったんだと思う。


二人は別れを決めて別の道を歩き始めた。


だけどその時、母には彼に内緒にしていたことがあった。


まぁ、よくある話なんだけど。

彼女のお腹には彼の子供が宿っていたのだ。



それは6歳上のオレの兄貴。


6年後、相沢さんは帰国し、そのことを知った。


お互い嫌いになって別れたわけじゃない。


相沢さんはすぐに母にプロポーズをした。


だけど、彼女は断った。


その時すでに彼女のお腹には別の男性の子供がいたから。


それがオレ。