ミル*キス

この人はいくつになっても“女”だ。

自分に子供がいることなんて忘れてるんじゃないかって思う。

家事なんて完全に放棄してる。

母親らしいことはされたこともないし、正直、この人から母性のようなものは感じない。



「サトシもコーヒーで良かった?」


キッチンの方から男の声がする。

声をかけてきたのは、相沢(アイザワ)さんだ。


「あ、うん」


「卵は?」


「なんでもいいです。お任せします」


「あたしのはベーコンと焼いてよね。味付けは塩とあら挽きのブラックペッパーでお願い」


自分じゃ作らないくせに、偉そうに母が口を挟んだ。


「はいはい」


なんて言いながら相沢さんは慣れた手つきで、片手だけで卵を割った。


エプロン姿の相沢さん。


彼はこう見えて、設計事務所の社長であり建築士だ。


オレはよく知らないが、その業界ではかなり有名な人らしい。


最近では相沢さんの設計した建物が雑誌に掲載されているのをよく見かける。

去年は某有名俳優の家をデザインしたらしい。


そんな人がなんでこの家にいるかっていうと……。