「ミルキーやん」


それは甘ったるい、キャンディーだった。

オレがこの世で一番苦手なもの。



「あれ? サトシ君、甘いの苦手だっけ?」


鏡越しにトモミさんと目が合った。

合コン用のメイクを施しているようだ。

大きなブラシで頬をピンクに染めていく。



「いや、甘いのは好きやけど。ミルキーはあかんねん」


「ふーん。なんで? 味が嫌い?」


「嫌いとか、そんな生やさしいもんちゃうで。オレ……多分、これ食べたら死ぬと思う」


「何ソレー?」


器用に口紅をひきながら話し続けている。

女が口紅を塗る姿ってちょっと色っぽくて好き。


「いや、マジやって。これ食って呼吸困難になって、病院運ばれたことあんねんて」


「ふーん。ミルキーアレルギー……みたいな?」


「うん、まぁ、そんなもんかな」


「へぇ。じゃ、ミルキー1つでサトシ君、殺せるんだ」


なんて、冗談だと思っているのか、相変わらず楽しそうに笑ってる。


「生まれつきなの?」


「いや、違う。オレの記憶では、小学校の低学年ぐらいまでは普通に食ってた」


そう。


オレがミルキーを食えなくなったのは、おそらくあの日からだ……。