ハサンとの会話が一旦止まり、そのタイミングで紅茶のお替りが届いてから少しだけ時間が過ぎた。
実際には数分足らずの時間だったかもしれないけれど、私はこの時になって三石商事社長室の室内を見回す余裕ができた。
広い社長室には大きさサイドボードがあり、その上には中東で見た美しい置物。
そして、壁にはペルシャ織のタペストリーが掛けられている。

「素敵ね」

神秘的でエキゾチックなインテリアは数日前までいたカタールを思い出させる。

「ねえ凪、あの時君は持って生まれた運命だからその中で自分らしく生きると言ったよね」
「ええ」

ハサンの人とは違う美しい容姿も、損ばかりする自分の性格も、運命と思って許容しその中で精一杯生きるしかない。
そんな思いで言った言葉だった。

「であるならば、僕とも出会いも運命と思って受け入れてほしい。僕はこれからもずっと君の側にいたいんだ」
「・・・ハサン」

不覚にも込み上げるものがあった。
泣かないでいようと思うのに、目の前の景色が揺れる。
もう2度と恋はしないと思ったはずなのに、出会ってからハサンのことが頭から離れなかった。
必死に忘れようとしてもよみがえってきて、自分でもどうすることもできなかった。
否定すれば否定するほど愛おしくて、自分でもハサンに恋をしていると気が付いていた。
だからこそ、近くにいることが怖かったのに・・・

「僕は、凪が好きだ」
ソファーの隣りに回ってきたハサンに手を重ねられ、
「私も・・・好きです」
とうとう言ってしまった。