ファーストクラスの恋 ~砂漠の王子さまは突然現れる~

「君に秘書としての能力があると感じたから、誘っているんだよ」

穏やかだけれど凛とした口調でハサンは答えてくれたが、私はまだ納得できない。

「具体的に教えてください」

私はもともと理系の人間で、大学卒業するときも営業職希望だった。
どちらかというと人のサポートをするよりも自分で何かをする方が好きだし、そんなに女子力の高い人間だとも思わない。

「そうだなあ、ちゃんと自分の意志を持っていて自立しているところと、こうと決めたら突き進む行動力かな」
「それは秘書しての資質だとは思いませんが?」

要は自己主張が強くて猪突猛進だってことで、とても長所とは言えない。

「どうして?ちゃんと自分の意見が言えて、一人で中東まででも行けるってすごいことだと思うよ」

これだけの大企業のトップというだけあってハサンは弁がたつ。
油断すると言いくるめられそうで少し怖い気もしてきた。

「じゃあはっきり言いますが、私は上司ともめて会社を辞めて、無職になったのに後先も考えずファーストクラスでの海外旅行に行ったんです。とても三石商事の社長秘書が務まる資質があるとは思いません。本当は何を考えているんですか?」
ハサンの本心が他にありそうで、私はさらに尋ねた。

「困ったなあ、これじゃあ僕が面接を受けているみたいだ」

確かに、自分の面接に来ているのに言葉が過ぎた。
知り合いだからこそ油断してしまった。

「・・・すみません」