ファーストクラスの恋 ~砂漠の王子さまは突然現れる~

「あぁ専務、お疲れ様です」
ハサンも当然のように返事をする。

社長?
確かに今、ハサンはそう呼ばれた。

「社長、お疲れ様です」
「お疲れさま」

その後も、廊下ですれ違う人たちはみなハサンに向けて「社長」と声をかけ頭を下げて行く。
それに対してハサンもにこやかに答えている。
ということは・・・

「社長、お疲れ様です。どうかされましたか?」
ハサンの姿を見つけて、綺麗な女性が駆け寄って来た。

「いや、社内の見学にね」
「はあ」

不思議そうな顔をした女性ににっこりと微笑むハサンを、私は無言のまま見つめていた。
にわかには信じられない話だけれど、これがテレビ番組のドッキリでなければ、ハサンは三石商事の社長なのだろう。
そして、年齢を考えるなら彼は三石財閥の縁者だってことだろう。
どちらにしても、私は凄い人と知り合いになってしまったらしい。

「凪、まだ信じられないなら下の階にも行ってみるかい?」

ニコニコと向けられる笑顔が意地悪く見えるのは、私の性格の悪さだろうか。

「いいえ、結構です」

もう十分。
ハサンがすごい人だってことはよくわかった。