ファーストクラスの恋 ～砂漠の王子さまは突然現れる～

「お願いだから、逃げないで」
そう言って、距離をとろうとした腕が引かれた。

日本人だからっていうわけではないけれど、人との距離が近いのは得意ではない。
特に相手が男性であればなおさら身構えてもしまう。
しかし、ハサンはそれが気に入らないようだった。

「僕のことが嫌いだから逃げるならかまわないが、そうでないなら逃げないで欲しい」

瞬き一つせずに向けられる視線は挑んでくるようで、そらすこともできない私は数秒間のにらみ合いの後やっと口を開いた

「何の説明もなくいきなりここに連れてこられ、逃げるなって言う方が無理でしょ。そもそもあなたは何者なの？」

私はハサンのことを何も知らない。

「君が、知ろうとしなかったんだろう？」
「それは・・・」

確かにそうかもしれない。
何度も聞く気か機会があったのに、私は自分の心に蓋をした。
結局私は臆病者なのだ。

「おいで、見せてあげるよ」

礼儀正しくて、優しくて、乱暴なことや強引な事は決してしないハサンが力強く私の手を引いた。
もちろん、部屋の外へと引っ張られる状況を力ずくで拒否することだってできる。
でも、私はそうしなかった。

「君に僕のことを知って欲しいんだ」

さぁおいでと手を引かれ、私はためらいながらも足をすすめた。