午後2時前。
私は三石商事の本社ビルに入った。

都心の中心地にあり、38階建ての立派な自社ビル。
そもそも三石商事は三石財閥傘下の企業で、食品から金属製品まで手広く扱う総合商社。
私も仕事で何度か取引をさせてもらったことがある。
大手とはいえ常に新しいことに挑戦していて、大きな会社なのに時代の流れに敏感で行動も早い。私個人の印象としては、風通しのいい会社だなと思っていた。
当然大学生の就職先人気ランキングでも毎年上位に来る企業。
今回はたまたま声をかけてもらったけれど、普通なら私なんかが就職できるような会社ではない。

「いらっしゃいませ」

正面玄関を入り案内の女性の前に立つと、立ち上がって声をかけられた。

「私、水野凪と申しますが」
「水野様ですね、伺っております」

良かった。どうやら部長さんから話は伝わっていたらしい。

「担当の者を呼びますので、少々お待ちください」
「はい」

私はとりあえず指定されたソファーに座って担当者が現れるのを待つことになった。