「あの、私の家族の話なんだけれど・・・」
なぜか急に思い出して、私は話し出した。

「私の父は東京で内科医をしていたの。大学病院に勤務して、これからもずっと東京に住むつもりだった。でも私の姉が喘息で酷い発作を繰り返すようになって、転地療養のために田舎の離島に引っ越すことになった。当然母も私もついて行き、姉の症状が落ち着いてからも島で暮らすことになったのよ」
「へえ、それは凄い決断だね」
「ええ、父も母も東京生まれの人だったから大変だったと思うわ。そんな父も私が小学生の時にがんで亡くなって、母はそのまま島に残り私たちを育ててくれた。そして、姉も父の遺志を引きついて島の診療所を復活させるために医者になろうと、医学部に進んだの」
「お姉さんも立派だね」
「ええ、父も母も姉も、島の人たちのためにと頑張っているわ」

誰にだって自分の欲はある。でも、父は姉のために自分の人生を変える決断をした。
姉も父の遺志を継ぎお世話になった島の人のために医者になろうとしているし、母だって不慣れな田舎で姉の帰りを待っている。
そう思ったら、私一人がわがままを言うことはできない。

「不平も不満もあるけれど、私よりももっと苦労をしている方はいるんだから、持って生まれた運命の中で自分らしく生きようといつも思っているの」
さすがに恥ずかしくて顔を見ることはできず、私は飛行機の天井を見ながら口にした。

「持って生まれた運命か・・・」
ハサンが小さな声で呟いているのが聞こえたけれど、私は何も触れなかった。