ファーストクラスの恋 ~砂漠の王子さまは突然現れる~

「君はいい人だね」
なぜかしみじみとハサンが口にする。

「そんなことはないわ。自分が今よりも良くなりたいって欲はあるし、意地悪をされれば相手の不幸を願うことだってある。それに、今まで生きてきて良い行いばかりをしてきたわけでもないわ。私は道徳者でもないし、偽善者でもないない。ごくごく普通の人間よ」
「それでも、自分に起きた理不尽に文句を言うでもなく受け入れられるって凄いことだと思うよ」

まだシートに横たわったまま、お互いに顔を見ることもなく話すからこそ、これがハサンの本音なのだと感じられた。
他人から見てどんなに恵まれているように見えても、ハサンにとって人と違うということが苦痛だったのだろう。
そして、その思いはきっとハサンにしかわからない。