「君って人は、ちょっと目を離すと何をするかわからないねえ」
ハサンの口調は優しいけれど、言外に「一体何をしているんだ」と叱られているような気がして私は下を向いた。

いくら因縁の過去があるにしたって、理不尽な要求にはもっとはっきりと断るべきなのだと私だってわかっている。
でも、できなかった。

「困った人だな」
そう言って、ハサンが私のことを抱き寄せる。

「ごめんなさい」
迷惑をかけてしまったと思い、意識することなくこぼれた言葉。
それと同時に、鼻の奥がツーンとして、目頭が熱くなった。

泣きたくなんてないのに、込み上げる熱いもの。
平気な振りをしようと思うのに、唇が震え油断すると嗚咽が漏れる。
少しでも気づかれないようにと、私はハサンの肩口に顔を押し当てた。

トン、トン。
ハサンが私の背中を叩いて落ち着かせる。

「ごめん、なさい」
他に言葉が見つからず、私は同じ言葉を繰り返した。