私自身、大学時代は元カレと付き合っていたし、就職してからは誰かを好きになることすらなかった。
元カレは節約観念のない変わった人だったけれど、こと恋愛に関しては一途で浮気をされたこともない。
基本的に甘ちゃんで、今思えばトラブルが起きそうな時は避けて逃げるタイプの人だったのだと思う。
だからかな、一緒にいて喧嘩をしたこともない。言うなれば、これが人生で初めての修羅場。
実際には、私とハサンは数時間前に会ったばかりの通りすがりの関係でしかないけれど、元カレは私の恋人だと思い込んでいる。
もちろんそう思わせたのは私とハサンだし、元カレがしつこく話しかけてくるのを避けるための策だった。
でもなあ・・・

「次から次に男を取り換えて金も貢がせるなんて、なんて女だ」
独り言のように元カレが吐き捨てる。

出来ることなら言い返したい。
私はあなたのお金目当てに付き合っていたんじゃないくて、節約を嫌がるあなたに合わせていただけ。できることなら身の丈に合った交際がしたいとずっと思っていたし、いくら世間知らずだった私に非があるのだとしても、いきなり会ったこともないお母様に罵倒される筋合いはない。
そして、そのことを知った上で黙って私のもとを去った元カレに、今更文句を言われる覚えはない。

「凪、チャイが冷めるよ」

テーブルに置かれていたカップを、ハサンが渡してくれた。

「うん、ありがとう」