「なあ・・・貸せよ」
当時のことを思い出していた私の目の前に差し出された元カレの手。

「え?」
何をと、首を傾げる。

「スマホだよ。連絡先、変えただろ?」
「ああ。って、教える訳ないでしょ」

本当に私が教えるとでも思っているんだろうか?だとしたら彼は本物のバカ。
世界中の男に一般公開しても、あなたにだけは教えない。

「何でだよ、昔はあんなにかわいかったのに」

何を言われても無視を貫こうと反対を向いた私に通路の向こうから投げかけられた言葉。
今ファーストクラスに乗っている乗客は私と彼とハサンの3人だけれど、そこにいるCAさんにだってきっと聞こえているはず。
そう思うとたまらなく恥ずかしくて、私は立ち上がった。

もう限界。
旅先の飛行機の中、それもせっかく乗ったファーストクラスで騒ぎなんて起こしたくはないけれど、これ以上の我慢はできない。
はっきりと、きっぱりと、面と向かって言ってやろうと一歩前に出た。その時、

「凪」
急に右腕を引かれ、肩を抱かれた。