「お前、本当に一人なのか?」
なぜか神妙な顔をして元カレが聞いてくる。

「そうよ」
悪いの?と睨んでみた。

私がお金持ちでないのはわかり切ったことだし、悔しいけれど私はこの場に浮いているのだろうと思う。
でもそのことで誰かに迷惑をかけた訳ではいない。ましてや因縁の過去を持つ元カレにとやかく言われる筋合いはない。

「日本に帰ったら連絡するからさあ、飲みに行こうぜ」
「はあ?」
何を言っているのよと驚いて、口が開いたままフリーズした。

「帰国後はしばらくはホテルがとってあるんだ。よかったら一緒に来ないか?」
「・・・」

世間知らずで、自分勝手で、全てにおいて詰めの甘い坊ちゃんだとは思っていた。
学生時代はその楽観的なところが魅力的にも見えたけれど・・・

「お前の好きな5つ星ホテルだぞ。なあ、いいだろ?」
「あなた・・・バカなの?」

子供がおもちゃでも自慢する様に満面の笑顔で話す彼にはもう呆れるしかない。
そもそも、彼は昨年末に結婚したと聞いている。
確か資産家のお嬢さんで、完全に政略結婚なのだとネットの記事にも出ていた。
彼は私がそのことを知らないとでも思ったのか、不倫関係を承知の上でついて来るとでも思っているのか、どちらにしても私をバカにしている。

「いいじゃないか、その昔俺が一体どれだけの金をお前に使ったと思っているんだ?それを思えば、断れないはずだろ?」
「それは当時付き合っていたからで、今更そんな話を持ち出されても困るわ」

それに、そのお金はあなたの物ではなくて親のお金。
当時何も知らずに同行していた私にも問題があるとは思うけれど、そのお叱りは3年前にお母様から頂いた。
確かあの時、「お金のことはもういいから、2度と息子に近づかないで」と約束もさせられた。あの時点で話は済んだはずだ。