「結局無いものねだりだってことだな」
コーヒーを口に運びながら、ハサンがつぶやく。

どうやら頭のいいハサンは私の言いたいことに気が付いてくれたらしい。
私が新鮮な魚介よりもクリームたっぷりのケーキにあこがれたように、ハサンがケーキなんかより採れたての海鮮がうらやましいと言ったように、人はみな自分にないものを欲しいと願う。それはハサン自身についても同じなのだろう。
綺麗な瞳と整った顔立ち。身長だって高いし、筋肉の付いたいい体は、誰が見てもうらやましいものだと思う。
でもハサンにとっては、周囲と違うことが苦痛だったのだろう。
きっとその思いは本人にしかわからない。

「でも、私は好きよ」
あえて言葉にはしなかったが、言外に「ハサンのことが」の思いを込めた。
出会ったばかりの人に言うのはおかしいけれど、これは私の素直な思いだ。

「ありがとう」

ハサンは照れ臭そうに笑った。

その後シャワーを浴びたり仮眠をとったりしながら、五時間にも及ぶラウンジでの時間を私たちは共に過ごすことになった。