ハサンにどう言ってあげたらいいのかと考えているうちに会話が止まり、目の前にはデザートのフルーツケーキが運ばれてきた。

「かわいい」
色鮮やかに飾り付けられたお皿を見ながら、つい声が出た。

「どうぞ召し上がれ」
クスッとハサンが笑顔を見せる。

大好きなケーキを前に子供っぽい反応だったかなと恥ずかしくなり一旦下を向いたものの、私はすぐに顔を上げた。

「私の子供の頃の話なんだけれど」
「うん、何?」
急に話し始めた私をハサンが不思議そうに見る。

「私の実家は日本海に浮かぶ離島で、本土まで船で3時間かかるところなの。人口も数百人で島民のほとんどが知り合いのような状態の田舎町」
「へー、楽しそうだね」

確かに、和気あいあいとして楽しいこともあるし、距離が近すぎて煩わしいときもある。
それでも、私は地元が嫌いではなかった。
さすがに今は嫌だけれど、老後は実家に戻りたいと思ったりもする。

「海は綺麗だし、海鮮は豊富でいいところなんだけど、何分にも田舎だからないものも多いの。特にお菓子やパンなどはなかなか入ってもこなくて、子供の頃はクリスマスと誕生日に食べるホールケーキが楽しみだったわ」

きっと都会で育ったんだろうハサンには理解できないだろうけれど、島の暮らしでは生クリームを使ったケーキや手の込んだパンはなかなか手に入らなかった。

「その分新鮮な魚介を食べて育ったんだろ、僕はそっちがうらやましいけれどな」
「そうかしら」

大人になった今ならそう思えるけれど、当時はサザエもアワビもタイもいらないからケーキが食べたかった。