部長だ。そして相手はMRの榊さんで、営業成績はトップ、持っている知識は豊富で、すでにチーフになっている人。ショートカットにぴしっと着こなしたスーツ姿がとても素敵で、「宝塚の男役みたいだ」と評判の方だ。

『付き合ってもらえませんか? 私と。社内恋愛は禁じられていませんし、問題はありません』
『問題とかそういうことじゃなくて』
『フリーなのは知ってます、付き合ってください』

榊さんの強い押しに私は驚いた。榊さんは自分に自信があるから、強く押すことができるんだろう。部長には榊さんのような女性が似合ってる。
お互いに高めあいながら上を目指せるし、いい相談相手にもなるだろう。

(これ以上聞いたらいけないわ)

私は昇った階段をそっと降りて、部署に戻った。
仕事中もそうだったけど、家に帰ってもあの時のことが頭から離れなかった。
偶然とは言え、人の告白を聞いてしまったという後味の悪さ。
それに、一番の気がかりが、部長がなんて返事をしたのかということ。
部長は私の彼でもないけれど、好きだと言ってくれた以上は、私のことを思ってくれているはず。

「ばかね、なんて自意識過剰なの?」

構わないで欲しいと思っているのは自分なのに、いざ、手元から離れていくと思うと離したくないという都合のよさ。本当に根性がねじ曲がっているとしか言いようがない。

「こんな性格がねじ曲がった私に、部長は勿体ないわ」

私は榊さんに嫉妬をしているのだろうか。欲しいものが出来ると意地でも手に入れようとして、手放したくなくなるなんてすごく意地悪だ。